2019/03/15
平成31年3月1日OMC勉強会レポート
今回は「独居の在宅看取り」をテーマに、事例検討会を開催しました。井田病院の西先生が事例を提案し、医療・介護従事者としてどのように介入していけば良いのか、参加者がグループになり、話し合いました。
【今回の事例】
患者:Oさん 80代 男性
病名:左下葉原発性肺癌(扁平上皮癌 StageIIIA)、左胸水、認知症(HDS-R 11/30)、難聴
2017年8月から、左下葉原発の肺癌に対し放射線治療を目的に当院通院。本来は10月頃まで治療継続予定だったが、8月末に治療拒否。60Gy照射予定が20Gyで中断。その後、通院もしなくなった。その頃から地域包括支援センターが関わっていたが、介入拒否。「お茶を飲みに来た」といって見守りをしていた。
2017年10月、隣人から「様子がおかしい、最近食べていないのではないか」と民生委員に連絡あり。地域包括支援センター職員が自宅に訪問したところ、衰弱して嘔気が強く動けなくなって失禁状態でいるところを発見。当院に救急搬送され、肺炎・脱水の診断で入院。入院後はせん妄がひどく、点滴自己抜針繰り返す、大声で騒ぐなど。体幹抑制をされ、自宅退院を強く希望。11月に当院在宅部門から訪問診療に行くこととなり退院。
SpO2 88%程度だが、石油ストーブありHOTの導入は見送り(その後、石油ストーブは石油切れ、ケアマネ・区役所職員から「つぎ足さない方がいい」との判断で放置:エアコンつけようとすると怒るため自宅は常に寒い)。定期内服は不可能。退院後は自分の病気のことも忘れてしまい「健康」と言い張り「もう来るな!」と訪問医を追い出しにかかる。
11月末に38℃発熱あり、食欲低下。入院を勧めるも拒否。在宅での抗生剤注射などで様子見ていたが、衰弱が進行し再度発熱した12月初めに、一応は本人の了承を得て入院。しかし入院直後から暴言・暴力。その後緩和ケア病棟に移ったが、本人は「帰らせろ!」と怒りまくる。12月末に、後見人など交えて自宅退院の方向をさぐり、家政婦2名を雇って帰宅。
しかし、帰宅後に後見人も同席していたが「知らないやつが家にいる!」と騒いで興奮するため、緊急往診でハロペリドール筋注するも落ち着かず、退院当日に再度救急搬送。看護師を殴るため身体抑制継続され、自宅退院は不可能と判断され精神病院や介護施設など検討(その後精神病院からは受け入れ拒否)。その後も転院先検討していたが2018年2月に入って傾眠傾向となり緩和ケア病棟転棟ののち永眠された。
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症例の情報を整理した後、西先生から次のような問いかけがありました。
「独居でがん、認知症の方は、今後もっと増えていくと思います。どういう体制があれば、今回取り上げた事例のような方でもご自宅でお看取りができたか。どこにターニングポイントがあったかを探ってみてください」
【事例に対して出た意見】
・本人が治療をやめた理由として「面倒くさい」と言っていたそうだが、本当にそれが理由なのかを聞けたのか。本当の理由が別のところにあってそれを聞けていれば、その後の対応を変えることができたのではないか。
・ターニングポイントは最初に救急搬送した時ではないか。家でできる治療をもっと考えられれば良かったのではないか。
・ターニングポイントは11月に自宅退院になった時ではないのか。退院前カンファレンスや担当者会議で、今後の方向性を確認したり、もう少し協力体制をつくれたりできたのではないか。
・最初の入院の時に、自宅に帰りたいという思いがすごく強かったので、入院の方向で話を進めるのではなく、自宅で治療を続けられる方法を模索したほうがよかったのでは。
・12月始めの入院がターニングポイントだと思う。本人の「家にいたい」という希望がきちんと情報共有され、汲み取れていなかったのではないか。
・家政婦など新しい人を入れて拒否されてしまっていたので、入院前に関係性
が良かったヘルパーさんや看護師さんなど、「この人なら大丈夫」という人で対応していくのが良かったのではないか。
・もう少し粘って、意思決定支援ができる人を決められればよかったのではないか。
・病院側は入院させなければ可愛そうだと思って、入院させたと思うが、この方は自宅で看取れたと思う。人間関係を作ることが重要だったのではないか。
・本人の意思決定支援ができる親族がいなくても、近隣住民の方や、役所、本人に関わる人々のコンセンサスを得られれば、この人なら自宅で診られると判断できたのではないか。関わる全担当者での情報共有が重要なのではないか。
【“粘っこい地域力”の重要性を再認識】
西先生は、12月末の退院の日に再入院となった時がターニングポイントで、病院側が「この人は自宅にいさせると危険」と判断し、安全性の面から入院させてしまったことが、検討要因だったのではと振り返られていました。
「翻って、このような事例の場合、地域の総合力が試されると思います。例えば、ターニングポイントになった退院の際、これまで関わっていた、本人が信頼をおける人たちに『おかえり』と迎えられたら、もっと違ったのではないでしょうか。今回、この事例を取り上げたのも、病院で抑制された状態でベッドで最期を過ごした彼を見て、本当にこれで良かったのかと、ずっともやもやした思いを抱えていたというのがあったんです。独居や老々介護は今後も増える事例だと思うので、非医療者も含めて横のつながりをつくっていき、粘っこい地域力で地域医療を展開してくことの重要性を改めて確認できればと思いました」
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次回のOMB勉強会は、平成31年4月5日「もし在宅で心臓マッサージを始めた場面に立ち合ったら」をテーマにした事例検討会を予定しています。ぜひ奮ってご参加ください。