2019/06/04
令和1年5月10日OMC勉強会レポート
今回は、夢見ヶ崎居宅支援センターの山本ケアマネージャーより、「がん末期患者を在宅で支えるためのチームケア」というテーマで事例を提示していただきました。
山本ケアマネジャーより、今回の事例を取り上げた理由について、以下お話いただきました。
「今回のケースでは、癌末期の患者を支える家族もまた循環器疾患を持っており、介護力に不安を抱きながら、最期は家族みんなで看取りたいという思いを成就させるために、本人や家族がどんな選択をしていくかを短い時間ながら垣間見つつ、生への尊さを実感したケースでした。在宅での療養生活を実現させるために、介護サービスの利用に繋げるまでいくつかの課題をクリアしなければならないと感じたので、その実態を振り返りたいと思います」
■事例の概要
食道癌末期の78歳男性。同居する長男家族、近くに住む次男家族とは家族関係良好。
腸閉塞の治療や抗癌剤治療で入退院を繰り返していた。癌の診断から3ヶ月後、抗がん剤治療が困難となり、病院から緩和ケア病院を紹介されたが、自宅から遠いために本人家族は入院を迷っていた。食事を摂れなくなり、持病のある妻が車で通院先の病院まで送り点滴をしていた。布団で寝ていたため、介護ベッドを借りたいとの希望もあり、介護認定申請のため地域包括支援センターを介してケアマネジャーへ依頼が来た。
ケアマネージャーが翌日ご自宅に伺うと、布団から起き上がれない状態で、著しい体力低下がみられ、脱水症状も疑われた。認定調査前のため、特殊寝台のレンタルは介護保険ではなく自費になる旨ご家族へ説明、了承を得て導入となった。病院のMSWに状況を聴くと、「本人が入院を希望したので緩和ケア病院を紹介し、面談予約を本日してあったが、病院に行かなかったので入院できなくなった」と説明を受けた。極めて通院困難な状態であり、ご家族に訪問診療を提案したところ希望されたため、在宅診療所に依頼。当日中に初診訪問となり、在宅酸素や訪問看護、床ずれ防止マットレスなどの導入が進められた。
急激な状態増悪のため、認定調査日を早めてもらうよう区役所に伝えたところ、「家族に確認したところ、急いでいる様子はなかった」と言われ、対応してもらえなかった。そこで、診療所から区役所に、本人の病状と介護認定を急ぐ状況を伝えていただき、結果、調査日が早まった。
本人家族が自宅から近い緩和ケア病院への入院を希望されたため、在宅診療所より紹介しエントリーの手続きを行ったが、いざ入院が決まると本人から入院に対して抵抗される様子もみられ、、夫婦の気持ちは揺れ動いていた。
相談依頼が来てから10日目、認定調査立ち会い後、訪問介護サービス契約開始。訪問歯科診療や訪問入浴のサービスを受ける。訪問介護サービス導入から1週間後、自宅にてご逝去となった。要介護5の認定結果が出たのは、ご逝去されてから17日後のことだった。
■各連携先からの補足
(在宅診療所)
・前院からの診療情報提供書には、最期の場所について話し合いをしたと記載があったが、ご家族からはある病院の緩和ケア病棟のパンフレットを渡されただけだったと伺い、食い違いに疑問を感じた
(訪問看護ステーション)
・医療保険で毎日訪問
・緩和ケア病棟への入院も検討していたが、お嫁さんも介護に関わるようになり、少しずつ自宅で看る方向になっていったのではないか
(訪問歯科)
・終末期では義歯を外す傾向にあるが、可能な限り望ましい状態を保つために、義歯は入れておく方針で入った
・癌末期だと、訪問歯科も医療保険で介入が可能。柔軟に介入できることを知らないケアマネさんが意外と多いので知ってもらいたい
(訪問介護)
・先に訪問看護師が対応してくれていた部分もあり、家族もなぜ自分たちが介入するのか最初は分からなかったようだが、お話をする中で、訪問看護師が過分にやってくれていたことを理解してくれた
・訪問看護師と役割が被っていた部分があったので、午前中訪問し明るい雰囲気をつくることを心がけた
<グループワーク前、山本ケアマネージャーより>
「癌末期の患者さんを支援する際は、スピード感があり、本当にケースバイケースで、一期一会です。今回の事例と似たような経験をされた方もたくさんいると思うので、自分たちの時はどんな時に困ったか、その時にどうしたらよかったのか、というような話をグループでできたらと思います」
■グループワーク後の意見
・事例の方同様に、在宅診療や介護サービスのことを全然知らないことが多々ある。もっと早い段階で理解できる説明をして、早く導入できる事例が増えればと思う。
・「癌末期」と言っても、今回の事例のような方もいれば、家事ができる人、自転車に乗って銀行に行ける人などさまざま。介護認定はスムーズに進んでも1カ月かかるので、今は自立的な生活ができていても、予後が悪いこともある。主治医意見書に予後が悪いことを書いてもらったら、要介護2が出た事例があった。
・介護認定審査会に関わる人には、癌末期の場合は予後を踏まえて介護度を重くつけてほしい。
・早くサービスを動かしたい場合は、MSWが地域包括やケアマネージャーを介す前に、訪問診療や訪問看護に直接連絡してつなげていくのもありではないか。
・夜間や休日などの時間外に呼ばれて行った時に、家族は一番心を開きやすい。「こういう人たちがサポートしてくれるなら頑張れる」という心境が生まれやすい。
・緩和ケア病院とも連携を取れていれば、いざという時入院できる安心感が生まれる。そのようなチームづくりが大事ではないか。
・訪問薬剤師は薬を処方するが、投与はできない。だからこそ、訪問看護が処方された点滴を投与するまでに、いつまでに届ければいいかを指示してくれる仕組みができている時はとてもありがたい。
・退院し、在宅医療に移行する際、各サービス毎に契約を結ばなければいけないのは、患者さんや家族に大きな負担。1回の契約で必要なサービス全てを受けられる状態にできる制度がほしい。
<西先生のまとめ>
「今回の事例検討会で、訪問看護や訪問薬剤、ケアマネージャー、在宅診療所が連携を取って“チームで動いている“という感じが、羨ましく思いました。1カ月に1回、こうして集まっているので、介護保険の壁があり難しい部分もありますが、どうしたらこの地域で、電話1本で『ちょっと〇〇お願いします……!』『分かりました!』とお互いに快く動けるチームをつくってやっていけるとありがたいなと思います」
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次回のOMC勉強会は、令和1年6月7日「痛みの適正ケアに情報リレーが活躍した症例」をテーマにした事例検討会を予定しています。また、薬樹薬局の薬剤師さんに訪問薬剤師の役割も語っていただきます。ぜひ奮ってご参加ください。